第3章 strategie③
撮影当日
俺は朝からソワソワしていた。
スタジオ入りする時間は12時だったか、俺はわざと2時間早くスタジオに入っていた。
なぜかというと、だいたい新人の役者は朝から入って待っていることが多い。ヒロカはマネージャーもいないはずだから、一人で楽屋にいるに違いない。
二人きりになれるのは撮影前だけだ。
だからそこを狙って、川崎には言わずに2時間も早く入ったのだ。
この日を逃すと次いつ会えるのかなんて分からない。
俺の彼女への執着心は半端ではなかった。
こんな想いは初めてで、もうコントロールなんてきかないし、そんなこと考えている余裕などなかった。
とにかく夢中で彼女との繋がりを求めた。
俺は「中村ヒロカ」と書かれた楽屋を探し出し、ノックをする。
「はーい」
ヒロカのハツラツとした声が届く。
ガチャと扉が開くと、目を丸くしたヒロカが立っていた。
俺の心臓は驚くほど早く高鳴った。
もうあかん。
彼女の破壊力は尋常ではない。
久しぶりにみるヒロカの姿にかっこ悪いほど動揺した。
「……光一さん…」
まさか俺がいるなんて予想していなかったのだろう。
ヒロカの目はせわしなく泳いでいた。
「あ、今日はよろしくお願いします。」
そうお辞儀をして壁をつくろうとする。
俺はそんな他人行儀な彼女の言動に傷つきながらもその姿を見せずに突っ走る。
もうどう思われてもええ。
我慢できなかった。
「入ってええか?」
俺は彼女の返事を待たずに楽屋の中に入って扉の鍵を閉めた。