第3章 strategie③
「そういえばさー、」
俺はなるべく自然を装って川崎に探りを入れるように尋ねる。
「なんですか?」
仕事の連絡で携帯をいじっていた川崎が顔をあげた。
「この間ドラマの撮影に来てた妹役の子覚えとる?」
「あー、はい。中村さんですよね?どうかしたんですか?」
「いや、あの子ってどう思った?」
質問の意図が分からないらしくきょとんとした顔をする。
「どうっていうのは?」
「いや、何でか分からんけど、彼女の芝居に鳥肌たっただよね。」
俺の言葉があまりに意外らしく、川崎はしばらくフリーズしていた。
「光一さんがそんなこと言うなんて珍しいですね。びっくりしました。」
「いや、そう思ったんの俺だけだったのかなー、思って。」
川崎は少し考えてからこう言った。
「んー、僕は芝居のことよくわからないのでなんとも言えないですけど、確かにあのシーンは僕も驚きました。元からの知り合いなのかと思う程自然に感じましたし。」
「そうやねん。なんか空気に引きずりこまれるというか。言葉じゃ説明できんのやけど。」
「あ、そういえば!」
川崎はなにかを思い出したようにそう言い出す。
「あの妹とのシーンの放送後、結構視聴者から問い合わせあったみたいで、妹とのシーンまた増えるみたいですよ。」
「えっ?!!!!」
俺があまりにも食いついた反応をしてしまったものだから川崎は少し不思議そうな顔をしながら笑った。
「そんな驚きます?」
「あ、いや、問い合わせってどんな?」
俺は咄嗟にごまかす。
「あー、なんか彼女は誰なんだ、みたいな。」
「ふーん。そうなんや。」
やっぱりや!
彼女はそうやってどんどんのし上がっていくに違いない。少しだけのシーンでも人を魅了させるチカラが彼女にはあるのだ。
いや、そんなことよりまたヒロカに会えるのか。
俺はどうにかして彼女にもう一度会う方法を考えていたので、こんなに簡単に機会がやってきてしまって拍子抜けした。
もう俺はこころに決めていた。
彼女の心を俺のものにすることを。