第3章 strategie③
「光一さん今回は随分早いですねー。」
ドラマの撮影スタジオの楽屋で、マネージャーの川崎がご機嫌そうにそう言った。
「そうやねん。降りてくるってこういう感覚やねんな。」
「いやー、アルバム製作をドラマの時期と平行できるのかと心配だったので一安心しましたよ。」
ドラマの主題歌を一曲。
この曲は以前から練っていたもので、それを収録した新しいアルバムの製作をしなければならなかった。
歌詞も幾つか担当することになっていたので、今回もギリギリまで出来上がらないと予想していたのだが、なにかが降りてきたかのように、メロディも、苦手な歌詞もポンポンと出来上がってしまったのだ。
「それにしても光一さんがあんな歌詞かくなんて正直驚きました。ファンの人もびっくりするんじゃないですか?」
川崎の言葉に俺は少し動揺したが、そう言われることは予測していた。
「そやな。歌詞自体書くの久々やから、新しいもの見せていきたいな、って思ってん。」
「なるほど。さすがですね。」
川崎はとにかくご機嫌だったのでなにも疑わずにそう笑顔でこたえた。
俺の曲づくりに大きく影響したのはもちろんヒロカの存在のせいだ。
彼女に対する切ない気持ち。
狂気的な思い。
嬉しい前向きなもの。
嫉妬心。
そういったものだけで何曲も何曲も生まれてしまったのだ。
誰かを思いながら曲を書いたのも初めてで、この曲をファンと言っていた彼女に早く届けたくでしょうがなかった。
歌詞も気付いて貰いたくて、ヒロカだと気づくようなヒントをわざと幾つか散りばめておいたのだ。