第3章 strategie③
彼女が俺の家を訪ねてから一週間がたった。
連絡先さえも聞けなかったので、その日俺が彼女のことで分かったのは名前と年齢と彼女の髪の匂いだけだ。
俺はその一週間家にいるときはパソコンを開いて彼女に関する情報を漁った。
そうすると見えてきたのが舞台以外にも短編の自主映画などにも幾つか出演しているということだ。
題名をyou tubeで検索すると、その映画の映像が出てきた。
少し古い映画のようで、彼女の髪が随分長かった。
内容は、浮気ぐせのある母親を恨んでいてその母親を殺しに行くという簡単なものだった。
5分と短い映像だったが、俺は狂ったように何度も何度も再生を繰り返した。
この間一晩共に過ごした彼女は映像の中には存在しない。
母親を恨んでその恨みを糧に生きているという狂気的な瞳に鳥肌が止まらなかった。
主人公が母親を殺したあと、生きる意味を失った彼女は絶望した顔で東京の街を彷徨う。
こんな表情をする人だとは到底思えないのだ。
本当に普通の女性で、彼女のこの表情はどこから生まれるものなんだろうか。
いつか俺も彼女を絶望させて、目の前でこの表情を見てみたいとさえ思った。