第2章 strategi②
扉を開けるとタクヤが眠そうな目でこちらをみていた。
ドアを開ける音で起こしてしまったようだ。
「おかえり。」
寝ぐせがピョンと跳ねていて、それがかわいいと思えず情けないと感じてしまった。
光一のようなかっこいいアイドルと一晩過ごしたあとに、彼を見ると現実的でがくりと落ちた。
「ただいま。」
「飲み会だったの?」
「うん。初日だったのにね。朝まで付き合わされちゃって。」
自分は望んでもいないのに参ったという風を装いながら笑った。
舞台をやってるととにかく飲み会が多い。お偉いさんがお客さんできたから飲みにいく。今日の舞台のできが悪かったから飲みに行って話す。
とにかく理由をつけてみんな飲みに行きたがる業界でわたしはうんざりしていたが、今日だけは助かったと思った。普段も突然朝まで付き合わされることが多かったため、タクヤも不思議がっていなかったようだ。
わたしは寝巻きに着替えようとシャツのボタンに手をかける。
ドキリとした。
そうだ。
キスマークがついているかもしれない。光一の匂いがついているかもしれない。ちゃんと確認しなきゃ。
「ちょっとシャワー浴びてくるね。」
「うん。俺もう少し寝るね。」
「分かった。」
シャワーで体を流しながら、わたしは昨日の出来事も全て洗い流せれば良いのに。と思った。
全てなかったことに。
なにも疑わずに迎え入れるタクヤに罪悪感を感じながらもわたしはもうすでに光一に会いたがっていることに気がつく。
昨日の出来事を思いだすだけで下半身が熱を帯びてくるのもわかった。
わたしは最低だ。
そして情けない。
憧れの芸能人に一晩抱かれて心を奪われるなんて、なんてかっこ悪いエピソードだろう。
女友達に相談したら蔑まれるに違いない。
遊ばれただけだ。
タクヤくんが可哀想。
そう言われる。
わたしは昨日の出来事は心の中だけにしまっておくことに決めた。
だってわたしは不倫をしてしまったのだ。
絶対的な悪で、わたしが非難される他ない。
しかしわたしは夫を愛していないのだ。
結婚を決めた時でさえ、わたしは愛していなかった。