第8章 strategie⑧
ヒロカはしばらく黙ってじっと俺の言葉を頭のなかで噛み砕くように考えていた。
「わたしも。」
「え?」
「わたしも全て捨てたの。」
「……。」
「旦那と離婚して。借金だけ戻って来て。
あなたを想い続けたいから。
わたしも出会ってからずっと深い海で溺れたまんまだよ。」
ヒロカの低く落ち着いた声が、部屋の中で静かに響いて俺のなかにスッと入ってくる。
この感覚が心地良くて仕方がないんだ。
すると今まで不安そうな顔でいたヒロカにパッと明るい光が差し込んだように見えた。
ぐっと顔を上げて、俺の顔を見据える。
その顔が本当にたくましく、何かを決意したようだった。
今まで彼女を支配していた鉛がパチンとシャボン玉のように弾けた気がした。
「待っててよ。」
「……。」
「すぐに天下とってみせる。
そしたら、わたしと結婚しよう。
子ども10人くらい産もう。
10色のTシャツ着せて、部屋の中で走り回って賑やかにしよう。」
ニコッとヒロカは笑ってみせた。
ヒマワリが咲いたみたいに本当に綺麗な笑顔だった。