第8章 strategie⑧
すると会場中にMゼロ(ミュージック一曲目)が流れ始め、会場が暗くなり暗転する。
Mはどんどん煽っていき、爆音が場内に響き渡る。
不安になるほどの大きな音は耳をガンガンと攻撃した。
パッと明るくなると、舞台に貼ってあった黒幕は取れていて何かの控え室のようなセットが組まれていた。
控え室には女子高生やナースの制服がかけてあり、大人のおもちゃなどが机の上に乱雑に置かれていた。
おそらく風俗関係のお店の控え室なのだろう。
明らかにヒロカの実生活を意識したであろう設定に、嫌な気持ちがした。
すると
丈の短い赤いワンピースを着た女がすっと舞台袖から登場した。
ヒロカだった。
会場中がグッと息を飲むのがわかった。
呼吸もできない程の空気に目眩がした。
彼女が舞台上に上った瞬間、空気が一変しヒロカが歩んで来たであろう人生の重みが劇場中に充満する。
ワンピースの紐の部分はだらしなく肩から外れており、赤く塗られた口紅もよれて汚くなっている。
ワンピースの袖から見える細い腕には無数の傷がついていて、痛々しい。
片手に持っていたタバコを無気力に灰皿に押し付けたあと、携帯をポーチから取り出し苛立ちながらどこかへ電話する。
電話の主は出なかったようで、舌打ちをして電話を乱暴にソファに投げつけた。
ヒロカの一つ一つの動作は目を引くほど自然で綺麗で、そして汚かった。
目の下には大きな隈が出来ていて、それがメイクだと分かっていながら不安になるほど、リアルに感じる。
それほど彼女の芝居には説得力があったのだ。