第8章 strategie⑧
本田劇場──
下北沢で一番大きな劇場。小劇団が憧れの舞台。ここに立つことを目標にみんな頑張っている。
しかしかつてこの劇場にこんなにも多くの報道陣で埋め尽くされたことがあっただろうか。
俺は演出席で劇場を見渡しながらそんなことを思っていた。
あの衝撃のスキャンダルからたった一ヶ月で彼女は舞台に立つことを選んだ。
いや、もしかしたら大きなチカラによって彼女は仕方なく立たされてしまったのかもしれない。
たくさんの汚いお金が動いているのかもしれない。
スズナリで舞台を見に行った時の会場の雰囲気とはまるで違う。なにか異様な緊張感がそこにあった。
スズナリでは純粋に舞台を楽しみに来ている客で埋まっていたが、今回は違う。
反感と好奇心でいっぱいだった。
#ヒロカ#…。
負けるんじゃねーぞ。
こんな糞みたいな客ばかりだけど、みんなお前を見に来たんだ。
お前しか見てない。
#ヒロカ#の芝居は最高だ。
こいつら全員お前の芝居で圧倒させればええんや。
俺はぎゅっと力強く手をにぎり、開幕の時間を待っていた。