第1章 幸せ記念日
晩ご飯は話し合いの結果、近くの小さな定食屋に行く事になった。
財布と携帯だけ持ってラフなおでかけ。並んでぽてぽて歩くのも何だか新鮮だ。
「貴哉とあの店に行く日が来るなんてなぁ。」
「詩織と一緒にご飯に行く時は、見栄を張ってお洒落なレストランとか選んでたからなぁ。」
「そんな事しなくて良かったのに。」
「年上のかっこよさを見せたかったの。」
恥ずかしいのか目を合わせない貴哉。面白いので脇腹をつついた。
「うっひゃい!」
「あははっ!変な声!」
今ので年上のかっこよさなんて無くなっちゃったよ?でも可愛いよ?
なーんにも着飾らなくったって、こんなに楽しくって、こんなに笑っていられるんだから。
「見栄なんて張らなくていいですよ?」
「そっちも敬語で改まらなくてもいいですよ?」
貴哉からお返しの脇腹攻撃。あたしも変な声を上げて笑われた。
「本当にさ、ぜひタメ口で話して欲しいんだよね。」
優しく提案してくる貴哉さん。でもその手はわきわき、いつでも攻撃態勢。
「分かってるんですけどね?」
攻撃の魔の手から逃れるため、貴哉との間に少しだけ距離を取る。
「まだね、その・・・付き合ってる、って実感が無くって。」
逃れるため、とか言ったけど嘘です。こんな事を言うのが恥ずかしかったからです。
だって付き合ってるだよ!?憧れのこの人と!!名前なんて呼んじゃってるんだよ!?信じられない!!
正直この恋は叶わないって、片思いで終わると思っていたから・・・。
まだまだ、すっぴんとか、甘えるとか、女っぽい一面とか、そんな部分を見せる日が来るなんて思えなくて。
「素直にならないとダメだとは思ってるんですけどね?」
上辺だけの関係なんて嫌だもん。ちゃんとしっかり向き合いたいもん。
でもあたしの弱い所を見せるのは勇気も必要で、嫌われないか不安で不安で仕方ないの。