第1章 幸せ記念日
「よし、これから詩織が俺を清水さんって呼んだら、捨てられた子犬のような目をする事にしよう。」
「何それー!」
突然の提案に笑い転げるあたしを見て、良いアイデアでしょ?と言わんばかりの清水さ・・・貴哉。
「俺が悲しそうな顔するわけだよ?良心が痛むでしょ?」
「全然?」
「酷いー!」
めそめそする貴哉。あぁ、確かに年上としての威厳は無くなっちゃったのかも。
こういうやり取りは以前から無かった訳じゃないんだけど。
付き合ってみると立場が対等になると言うか、変に気取らなくて良くなると言うか、なんだか可愛く見えて来るから不思議だ。
こうやって甘えて来るところを、情けないとか男らしくないとかじゃなくて、愛おしいと思ってしまうんだから。
・・・あたしは心底この人が好きなんだなぁ。
「ごめんごめん。よしよし。」
すぐ隣ににじり寄って頭を撫でる。髪の毛がふわふわな事も付き合い出して知った事の1つ。
「貴哉ー。」
ふわふわ、ふわふわ。貴哉がやってくれるみたいに優しく。
気持ちいいって感じてくれてたら嬉しいな。
「詩織ー。」
溶けた声が返って来て、あぁ可愛いなーって幸せに浸る。
清水さんを貴哉って呼んで、詩織って呼ばれて、こんな甘えん坊な一面を見られる日が来るなんて。夢みたい。
「ところで清水さん。」
「むぅ!」
清水さん渾身の「捨てられた子犬のような目」は、あたしの腹筋を崩壊させるのに十分な破壊力を持っていた。