第1章 幸せ記念日
腕をぷらぷら振って歩く。持ち物は財布と携帯だけ。身軽な2人は並んで歩を進める。
「貴哉がこんなかっこいい事も出来るなんて。」
「まぁ俺は紳士ですからね。」
「じゃああたしは淑女ね。」
「淑女はこんにゃろーなんて言わないね。」
「この野郎ですわ!」
「まず”野郎”って言葉が汚いからね?声とか語尾だけお上品にしてもダメだからね?」
「貴哉には勝てないなー。」
「勝たせないよー?」
くだらない会話。自然な笑顔。止まらない2人。
お洒落なお店も綺麗な言葉もいらない。でも「あなたさえいれば」なんて夢物語も言わない。
分かり合うための時間と、分かり合おうとする努力があれば大丈夫。
だって今も、実は貴哉の手はカサカサしてて触り心地があんまり良くない事を知ったけど、こんなに愛おしいって思えるんだもん。
あたし達はやっていける。笑い合って、ずっと。
1歩を、数日を、たくさんたくさん重ねて、ずーっと。
定食屋さんが見えて来た。おなかはすっかりぺこぺこだ。
「何食べようか?」
「あたし、生姜焼き定食!」
「決めるの早い!俺まだ悩んでるんだよね。」
「おやおや?お得意の優柔不断?」
「だねぇ。いやー江口には勝てませんわー。」
「あ、名前。」
「あ。」
実はすでに知っている事も、勝てる事もあったということで。