第5章 Locations subject to rainbow
[狷介不屈]2
「…あれ、奈々美ちゃん来てたんだ」
「あ、桃ちゃん。おはよう」
自分の言った寝言に起きたのか、桃は奈々美に向かって呟いた
「私、何か変な事言ってなかった?」
「ううん。別に大丈夫だよ」
(流石に正直には聞けないな…)
「今日はシロちゃん…来ないんだね」
「うん。ごめんね」
余りに桃が寂しい顔をして言う為、奈々美はつい謝ってしまう
(今日は私しかいないのに日番谷隊長の事しか話してない)
そう思うと段々と何とも言えない虚しさが奈々美を襲った
好きな人の話をするのは当たり前だと自分に言い聞かせ我慢した
「…奈々美ちゃんはさ、シロちゃんと一日置きに来るんだよね?」
「うんそうだよ。それがどうかしたの?」
「ここに来るのはシロちゃんだけにして貰えない?」
「…え?」
やっと桃が奈々美に視線を合わせたと思ったらこの言葉
だが彼女の眼差しは偉く真剣だ
「何度も言わせないで。私だってあまり言いたくない。言ったでしょ?私にはシロちゃんがいてくれるだけでいいって」
彼女の極めて自己中心的な発言に初めて(名前)は怒りを露わにする
「そんな事言ってないでよ!日番谷隊長を好きな桃ちゃんにとって私が邪魔なのは分かってる。でも幼馴染みとして、兄弟として桃ちゃんを支えたいって思う事も駄目なの?!
言っておくけどこの前隊長が倒れたのも元はと言えば桃ちゃんの所為……」
ここまで言って奈々美は口を止めた
そのままゴメンと呟くと、自分の荷物を持ち扉へと進んだ
「桃ちゃんがそうしたいのは分かった。私から日番谷隊長に言っておくね。
それに私がその分の仕事をやれば隊長も少しは時間作れると思うから。それじゃあ」
「……」
閉められた扉の音だけがやけに大きく病室に響いた
そしてこの二人が再び会話をするのは暫く先の話になるだろう
狷介不屈(ケンカイフクツ):自分の意志を堅く守って志を変えず、他に屈しないこと