第7章 This more than I do not need
[月下氷人]2
「いやだって、今はもう恋人同士なんでしょ?名前で呼び合ったらいいじゃない、昔みたいに。
奈々美ちゃんにも同じ質問したら『もう慣れちゃったから今更直すのは難しい』って言ってたけど、女の子は自分の名前を呼び捨てしてくれたら嬉しいもんだよ?」
桃の言葉を聞いて冬獅郎はハッとした
(…確かに俺も楠木に名前で呼ばれるのは嬉しいかも…)
今まで一緒に過ごすだけで後は恋人らしい事は何一つとしてやっていなかった二人
勿論キス一つもあの日以来お預けである
「やっぱ奈々美ちゃんも建て前は部下だし、そうゆうのは上司兼男であるシロちゃんが引っ張ってあげなきゃねぇ」
冬獅郎は口にこそ出さないけれど、心の中はこれ以上ない胸の高鳴りを見せていた
「成る程参考になったぞ雛森!じゃあ昼も終わっちまうし、帰るわ」
そう言うと冬獅郎は生き生きとした背中で病室を出た
「たくもー惚気ちゃって。どんだけデレデレなのよ」
桃の呆れた声は誰にも届かない
月下氷人(ゲッカヒョウジン):男女の縁をとりもつ人のことをいう。仲人