第2章 Opening
[雪月花]2
~~十番隊舎執務室~~
「…おはようございまぁす…」
良かった。まだ隊長も来てないみたい
「おう。どうした今日は遅かったな」
「きゃぁぁっ!!」
かなり驚いてしまった
それは既に日番谷隊長が机に向かって書類処理をしているからだった
(ち、小さくて見えなかった…)
私はどこまで最低な奴なんだろう
チビと言われるのが嫌な事を嫌なくらい知っている私が日番谷隊長を小さいと思ってしまうなんて…
「…おい、その花どうした?」
今気付いたかのように隊長は私の右手にあった水仙の花を指さした
「あ、これはここに来るまでに貰ったんです、花屋の方に。水仙の花って確か十番隊の隊花ですよね」
神秘とエゴイズム
この言葉が水仙の花に込められた花言葉である
私は給仕室に花瓶を取りに行き、水仙を飾った
「綺麗だな。やっぱり花があると空気が違う」
日番谷隊長が花の飾られている窓辺を眺め、微かな笑を零した
その姿を見て私に決心がついた
「日番谷隊長、昨晩は申し訳ありませんでした」
「…はっ?」
私が軽く頭を下げた時、隊長は窓辺を向いていた視線を私に移した
「昨日の夜、部屋の前で会った時の事です。私その時丁度日番谷隊長に会いたくない時だったので、少々冷たく当たってしまいました。今思えば隊長に当たるなんて言語道断です。申し訳ありませんでした」
「会いたくないって、俺お前に何かしたか?」
「もう良いんです。お気になさらないで下さい」
少し私の様子を伺った後、隊長は安堵のため息を零した
「ハァ…でも良かった。こっちもお前に何かしたんじゃねぇかって少しヒヤヒヤしてたんだ。でもそれにしてもお前人にズケズケ言ってくんのは昔から変わってねぇのな」
(昔から…。やっぱりここにいるのはあの時の冬獅郎なんだなぁ)
この時私は一人で笑っていたらしい
「何ニヤニヤしてんだよ。お前」
「なっ、ニヤついてなんかいません!もう隊長のバカッ」
「…お前より頭良いつもりだが?」
「〜〜〜〜!!! お茶淹れて来ますね!」
もう怒った!と思いきや、私の心は何だか晴れ晴れしていた
(良かった。もう部下としか見てくれないのかと思った)
給仕室に向かう背中を、愛くるしい眼差しで隊長が見ていた事は私は知らない
雪月花(セツゲツカ):四季における美しい風物