第6章 NOTICE
[茫然自失]2
「うんそうだよね。私、シロちゃんに告白してから気付いたの。シロちゃんに惚れたのは私の錯覚なんだって」
「さっ錯覚?」
(それもそれで何か…)
「私が目覚めた時、一番近くにいて私を受け止めてくれたのがシロちゃんだった。あの時私は色々失くした物が多すぎて兎に角支えが必要だった。
そんな時に親身になって私の話を聞いてくれたり、マメに私に会いに来てくれたりして、好きになった」
「でもちょっと待て。そんな事言ったら楠木だってお前の所に通ってた筈だろ?」
「そう、奈々美ちゃんもよく来てくれた。でもシロちゃんが来る度にあの子の話しかしなくなって段々それが妬ましく思えてきた。
たまに来てくれる吉良くんや阿散井くん、檜左木先輩だってここに来るといつも奈々美ちゃんの話。
大切な人に捨てられた私にとって奈々美ちゃんの存在は憎いの賜物でしかなかった」
桃の口から次々と出て来る真実に、次第に冬獅郎は言葉を無くしてしまった
(俺の知らねぇ所でこんな辛い思いをしてたのかコイツは…)
『シロちゃんもう止めない?奈々美ちゃんの話。もっと違う事聞きたい』
以前こんな事を言った桃の気持ちが今やっと分かった気がした
「それを今日楠木に言おうとしたのか?」
「大半はそう。あとはずっと謝りたくて。まぁ手順が違っちゃったけどね」
笑顔の裏にはまだ何かある様な気がした
「ねぇ奈々美ちゃんの事、好き?」
「好きだ。好きで好きで堪んない」
照れ隠しもせず堂々と即答した
今となってはこんな事も素直に言える仲になってしまった
…それが幼馴染みと言うものなのだろうが
「じゃあさっさと奈々美ちゃんの所へ行っておいで!十番隊にいるんでしょ?そこで自分の気持ちを包み隠さず言って来なさい!」
ポンと冬獅郎の背中を押した
一瞬彼は驚いた様な顔をするが、それはすぐに真のある目つきに変わる
「…礼を言う雛森!!」
「頑張れよ…」
少し涙ぐんだその声は、ひっそりと病室の中へと消えた
茫然自失(ボウゼンジシツ):驚きのあまり、あっけにとられて、我を忘れること