第6章 NOTICE
[複雑蟠纏]1
「大丈夫よ奈々美。取り敢えず息を深く吸って深く吐くのよ。そう、ゆっくりとね」
乱菊の落ち着いた声と、奈々美の荒々しい息遣いが執務室に響く
奈々美自身、過呼吸という経験は初めてだった為、治りは通常より遅く、また掌も小刻みに震えていた
乱菊は背中をさすっていないもう一方の手で、彼女の掌を握り締めた
そんな乱菊の介抱のお陰もあってか、数十分後には奈々美の過呼吸も収まりつつあった
「どう?落ち着いた?」
「…は…い。ハァハァ…ありがと…う…ございます…ハァ…」
「ホラ、お茶飲んで。喉乾いたでしょ?」
言いながら奈々美に湯呑みを差し出した
少しずつゆっくりと緑茶を飲む姿を見て、乱菊はその場を離れ自分の席に座ると、やり途中の書類に手をつけた
「アンタもう仕事やらないで上がったら?私やっとくし、そんな状態じゃできないでしょ」
「え、ちょっとそれは…。今はまだ帰りたくないと言いますか、独りになりたくないと言いますか…」
「………」
言葉を濁す奈々美に、言葉を失う乱菊
「私が今男だったら今のアンタの台詞聞いた時点で襲ってたわよ」
「ええー?!そうゆうつもりで言った訳じゃ…って言うか女の人同士でもあるんですか?そうゆうの」
「ちょ、ちょっと誤解しないでよね!私はそんな趣味は微塵もありませんから。例えばの話よ。
でもアンタの言いたい事は分かるわ。確かにあの後じゃ怖いわよね。それじゃあ仕事が終わったらアンタを部屋まで送ってあげるわよ」
「あ、ああそうゆう事か…。勘違いしちゃった」
微妙に頬を紅く染め、照れ笑いをする奈々美
だが乱菊の胸の内は未だにわだかまりがあった
(『桃ちゃんがいる』って…。隊長ったらどんな心配を奈々美にさせてんのよ。あなたの心は決まってるんでしょ…?)