第6章 NOTICE
[寸善尺魔]2
しかし、災難の雨は未だに止んではいなかった
「おっといけねこんな時間だ。雛森の所に行って来っから楠木は松本と一緒にいろ」
その言葉を聞いた刹那、私の目の前は再び黒い闇に覆われた
何が『好き』だ
日番谷隊長には桃ちゃんがいるじゃないか
貴方が時間を割くべきなのは私じゃなく、あの子の為じゃないといけないんだ
「…すいません交渉決裂です。日番谷隊長」
「…は?お前何言ってんだよ」
今にも走り出しそうな背中を私が止めた
「貴方の守るべき対象は私じゃない、雛森副隊長です。
…そんなヒーローでもあるまいし、一度に何人も守れませんよ」
「俺は楠木の為ならヒーローにでも何でもなってやる。だからそう言うんじゃねぇ」
苦しい…苦しいよぉ…
話を切り出したのは私の方なのに、自分がメチャメチャ傷付いてる
今にでも泣きそう
思ってる事と行動が矛盾していて嫌だ
すると、日番谷隊長の手が私を捕らえた
振り解こうとしてもなかなか離してくれない
「十番隊の!…三席の力を舐めないでください!」
力強く言った所為で、目からは大粒の涙が零れた
日番谷隊長は完全に言葉を失ってる
「このぐらいなら自分で立てます!守ってくださらなくて結構です!
私は…日番谷隊長の部下だから。貴方にだけはこんな事で迷惑を掛けたくない…!」
下を向きながら私は大泣きをした
一瞬緩んだ彼の握力の隙を突いて、私は掴まれていた手を払った
「…日番谷隊長は桃ちゃんの側にいてください…」
それだけを言い残し、私は十番隊隊舎へ歩を進めた
寸善尺魔(スンゼンシャクマ):良い事は、とかく妨げが多くで成就し難いことのたとえ