第6章 NOTICE
[暗澹溟濛]2
今の楠木の状態は正直言って酷いの一言に尽きる
本人は下を向いて隠そうとしているが、顔面は見事に腫れ上がっていて、いたる所から血が出ている
左の腕は恐らく骨を折られたのだろう、力無く下に垂れ下がっていた
ったく女二人の力でそこまでやるかよ…
そんな楠木を見て俺は二人を殺してしまいたいと思ったと同時に、楠木に対する愛しささえも感じられた
(こんなになるまで頑張ってんじゃねぇよ…)
『奈々美…無事にここまで戻って来れますよね?』
さっき松本が隊舎で言った言葉
あれからずっとこの言葉が俺の中で引っかかっていた
心配になって慌てて探しに行ったが楠木の奴はワザと霊圧を消してやがった
だが、その代わりに六番隊の方の女たちが馬鹿な事に霊圧をピンピン張ってたから見付ける事ができた
…遅くなっちまったけど
「…楠木…」
女たちが去った後、俺は楠木の所へと駆け寄った
だが膝をかがませて顔を覗き込もうとした俺に、彼女は『嫌だ』と言うようにそっぽを向いてしまった
それに今まで我慢していたものが一気に切れたのか、楠木は俺が見た事もない程の涙を零していた
「…怖かったな。遅くなってゴメン。顔、上げてくれ」
優しく抱き寄せると楠木もまた俺の腕に右手だけを回し、耳元でこう呟いた
『こんな顔、貴方だけには見られたくない』
俺の事を隊長と言わず、敬語も遣ってない事からただならぬ必死さを感じた
「…そうか。じゃあ俺は外で待ってるから鬼道で自分の治せる所は治して来い。それから四番隊にでも行こう」
それだけ言い残し、彼女の頭を優しく撫でると、俺はその場を去った
暗澹冥濛(アンタンメイモウ):暗くてはっきりせず、先が見えないようす