第11章 夕暮れの強制デート
これでもかと眉間に皺を寄せて凄む兵長はこんな事を言った。
「暇なんだよ……付き合え」
予想外の言葉に私は一瞬動きを止める。
しかし兵長はその歩みを緩めず、気付けば私達は兵舎の外に出ていた。
初夏の夕方は少し肌寒い。
『何処に行くんですか?』
兵舎から出てしばらく経った頃だ。
相変わらず握られたままの腕に妙な気恥ずかしさを感じた私は兵長に声を掛けた。
競歩並みに速かったスピードも今はゆっくりとした物に変わっている。
「お前は軟弱だから……部屋で小便漏らされたら堪らねぇからな」
返って来たのはぶっきら棒な言葉。
一聞すると的外れにも思える答え。
兵長の不器用な心遣いに自然と顔が綻んでいく。
『お散歩、ですね』
へらりと笑かければ兵長は照れ臭そうに「ああ」と呟いた。
生い茂る緑を身体一杯に吸い込む。
木々の香りは日本のそれと同じだ。
そう思うと何だか嬉しくなった。