第9章 「来ちゃった」【R18】
「殴っていいよ…いきなり酷い事してごめんな」
そう言って目を瞑るジャン。
口元には未だ自嘲するような笑みが浮かんでいる。
『……出来ない』
「なんで?」
『トイレでの事、怒ってない…から』
私がたどたどしく告げれば、ジャンは伏し目がちに答える。
「…優しくされると余計辛い」
手の甲を伝う熱い雫。
泣いてる。
まるで辛い胸の内を吐露するように。
『ジャン…』
「ほんと…っ情けねぇな、俺」
ジャンは泣き崩れるようにして私の肩にもたれかかった。震える背中にそっと手を回すと、力強く抱き締め返される。
自由の翼がはためくジャケットは外の匂いがした。