第1章 【目に付いた話】
僕が放心状態で宙を見つめていると、神薗さんは一歩また一歩と近付いてきた。そして頭の先から爪先まで観察する。
「い、イヤだな~そんなに見つめないで下さいよ」
恥ずかしいじゃないですか~、などと馬鹿面で空気を変えようとするのは、もはや僕の習性みたいなもの。
子供の頃から、笑って誤魔化せば大抵の事は無難に過ぎていく事を学んでいたからだ。
あとは彼女が、どんな対応をしてくるか。
……キドに、一発で人を落とせる急所攻撃でも教わっておけば良かった。
少女には悪いが、そうすれば気を失った際の奇妙な夢で話が済んでたかも知れないのに。
「…ちょっと」
刑事事件沙汰の物騒なことを考えていた僕に、神薗さんは少しだけ声のトーンを落として口を開いた。
「いつまでそうしてるつもり?」
「………」
彼女の冷静な指摘に、混乱を極めていた思考が正常に動き出す。
これ以上この姿でいるのはマズい。
そんな事も理解できずに慌てふためくあたり、僕は本当に抜けている──
「…あ、あれっ?」
手の甲を思いっきりつねっても、能力が解けない。