第4章 【目が潤んだ話】
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セトに『今夜は帰らない』とメールして外泊の公認を得た僕は、先程の気持ちは何処へやら、ワクワクした気持ちが勝って顔は笑みが止まらない。
神薗清子の、まだ未知なるテリトリーへの侵入を許された事が、僕を特別扱いしてくれている様な気がして。
「お風呂ありがとー」
感傷がすっ飛んで、彼女が使っているシャンプーの匂いに微睡んでしまう僕は、少し変態かも知れない。
神薗さんはパジャマ姿の僕を見やってから、再び勉強机に向き直る。
塾を早退したせいで出来なかった勉強を自宅でするのは当然であって、それを邪魔してはならない事を僕は弁えていた。
こういう雰囲気は、どこか懐かしい。
母さんが仕事に行く前に化粧をしているのを、僕は黙って後ろから見ていた。
早く終わらないかな、また僕を見て欲しいな──世間から見たら虐待をする酷い親だったかも知れないけど、僕は母親が大好きだった。