第3章 【目に星が飛んだ話】
「冗談はともかく、また見境無く“変わられたら”大変だからね」
だから早く帰りましょうと、何気なく言う神薗さんの言葉が、僕の心を奮わせて止まない。
僕の為に、大事な塾を早引きしてくれた。
僕の為に、寄り道せず家に帰ろうと言ってくれた。
僕は彼女に、こんなにも受け入れられているのかと、期待と嬉しさで背筋が痺れる。
「あ、でも塾の早退は今日限りだから」
「うん。分かってるよ。今日はごめんね」
彼女の隣を並んで歩き、ちらりと横顔を盗み見た。
別段普段と変わりなく、眼鏡の奥の瞳は涼しげで。──眼鏡しない方が可愛いのになぁと思ってしまった僕は、既に神薗清子に心臓を飲み込まれてしまったらしい。
「…何見てんのよ」
「別に。僕は優しいゴシュジンサマに拾われたな~と思って」
あながち外れていない本心を言えば、神薗さんの頬にさっと色味が差した。