第3章 【目に星が飛んだ話】
「お待たせ」
神薗さんは、制服のポケットから自転車の鍵を取り出しながら言う。
「晩御飯は昨日のカレーのリメイクでも良いわよね」
「…え?え、えぇっ!?」
「何よ、タダ飯喰らいのくせしてメニューにイチャモンつけるつもり?」
じろりと神薗さんの鋭い視線が向けられた。僕は慌てて首を振る。
だって神薗さんはまだ塾の途中で、僕はただ会えれば良いと思っていただけで──。
「……塾は、良いの?」
「何を今更」
自転車を推し進めながら、神薗さんはとても大人びた顔で微笑んだ。
「ゴシュジンサマの帰りを待てない子犬が鼻を鳴らして会いに来てたら、放っておけないでしょ」
──その言葉に、僕の心臓がドクリと音を立てた。