第3章 【目に星が飛んだ話】
「べ、別に特に理由も無くて…」
「そう」
神薗さんは短く返して僕を一瞥すると、そのまま塾の内部に消えて行こうとする。
「あ、あの─っ!」
僕は咄嗟に引き留めてしまうが、二の句が告げられなかった。一緒にいたいと言ってしまえば、気持ち悪がられる。嫌われる。
「…た、たまたま通りかかっただけだから!勉強頑張って。帰り道は気を付けてね」
潤みそうになる瞳を、微笑みで打ち消す。
神薗さんはそんな僕をじっと見据えると、手に持っていたコンビニの袋をずいっと差し出してきた。
「これ、持ってなさいよ」
「え?」
「鞄取ってくるから」
そう言い残して、神薗さんは塾に入って行った。
呆然と立ち竦んでいる間に、時間はあっという間に過ぎたらしい。帰り支度をした神薗さんが、再び僕の前に姿を現した。
……僕は夢を見てるんだろうか。