第3章 【目に星が飛んだ話】
その言葉に、今まで気付かないようにしていた──いや、本当は気付いて欲しかった僕のフラストレーションが、一気に爆発した。
「…じゃあさ、いつまでもメソメソしてた方が姉ちゃんの顔が立つってワケ?」
挑発的な僕の返しにも、キドは怯まなかった。
「いつもヘラヘラしてるよりはずっと良い」
「ふーん。じゃあキドはずっと喪に服してなよ。その方が姉ちゃんも喜ぶんなら、ね」
「…っ、お前っ!」
「ちょっと二人ともっ、止めるっすよ!」
険悪な雰囲気に、セトが仲裁に乗り出した。
口が立つ僕と立たないキドでは、最終的にキドが手を出して暴力沙汰になる。いつもは紳士的な僕がサンドバッグに徹し、キドも気が晴れて事が済むわけだが。
「……調子に乗るなよ」
今日の僕は、いつもと違った。
掴み掛かってきたキドの腕を払いのけ、仕返しといわんばかりに彼女の襟元を掴み上げた。
「黙って聞いてりゃ、言いたいこと言ってくれちゃってさ。僕が姉ちゃんを裏切ってる?はっ、笑わせてくれるよ」
姉ちゃんの庇護の下で、ぬくぬくと暮らしてきたセトとキド。僕から言わせれば、何も知らず、何も気付かない二人の方が──
「──裏切ってるのはお前らじゃないか」
言わなくても良い言葉を、僕は止めることが出来なかった。