第1章 【目に付いた話】
泣きながら、すっかり嘘泣きも上手になってきたな…と僕は自分自身に呆れる。
「…はぁ」
溜め息が聞こえた。
顔を覆った手の隙間からチラリと神薗さんを見やれば、疲れたように頭を押さえていた。
目の前で起きた怪奇現象と、泣き崩れる異常者に精神が参ってしまったのだろう。そりゃそうだ。
ご愁傷様というか、運が悪かったと割り切って…とにかく早くどっか行け!と言うのが僕の心の叫びだった。
もちろんそんな心の声は届くはずもなく、神薗さんは自転車の前カゴに積んでいた鞄を開けると、何やらゴソゴソと探し始めた。
──ケータイか?
僕は反射的に身構える。
通報されるか。
それともカメラ機能で証拠写真を撮られるかも知れない。
しかし、ここでダッシュで逃げる選択は後々に問題を残しかねないと判断してすぐさま却下する。
どうやって、目の前の理屈に煩そうな女の子を言いくるめるか。…これはもう、僕ひとりの手には…とそこまで考えた所で、頭に何かが被さってはっとした。