第5章 飛翔
「…失礼ですが。」
エルヴィンの声が重かった空気を断ち切った。
「…何でしょうか。」
「お互いに少し嘘は止めてみませんか?」
穏やかな顔で何てことを言うんだこの男は。
横にいたもう1人の調査兵も目を開いて驚いている。
「私は自分の業務を外してあなたの本心が知りたい。」
…私の本当って何だったっけ。
ロイが死んでから自分がよくわからなくなっていたことに初めて気がついた。
「私は…見ての通りです。ただの外を知らない世間知らずですよ。両親に金と天秤にかけられて捨てられた惨めな女です。」
自分で言っていて心が痛む。
そうだ、私は捨てられたんだ。
「外に出たいとは思わないのかい?」
ロイがいた頃の自分を思い出す。
辛いことばかりだったけれど、あの時の私はお兄ちゃんが足を治してくれたら外に出れると信じていた。
「昔はずっと憧れていました。でも今は……例え自由になったとしても、この足では仕事だって出来ない。外に出たことがないから、世間の常識だってわからない。
私は結局、ここで待っていればエサがもらえる家畜のような生活が似合っているんです。」
何も言えないでしょ。
私はこういう人間だから。
もう思い出させないで。