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遠い花

第1章 花


ピンポーン。
中からはーいと返事が聞こえてきた。
…来てしまった。住まわせてもらっているのは自分なのでどうしても断りきれず来てしまったのだ。
蘭ちゃんか蓮君が出て来ますように!!
ガチャリと鍵の開く音がした。ドアの向こう側に居たのは、
「はい、どちら様…百合ちゃん?」
橘さんだった。しかも、下向いてたのにばれた!
「ぁ…その、これを届けるように…おばあちゃんが」
「ありがとう。何だろ…」
「浴衣…蘭ちゃんの。」
「そっか。蘭喜ぶよ。ありがとう。」
「…じゃあ…これで」
早く橘さんから離れたくて踵を返そうとした。
「百合ちゃん!」
名前を呼ばれ思わず立ち止まる。
「…あの、この間はごめんね。触られるの嫌だったんだよね…?」
申し訳なさそうに言う橘さん。
違う。
違います。
橘さんに触れられるのが嫌なんじゃなくて。
「…私が悪いんです。」
「え?」
「この間はごめんなさい。橘さんに触れられるのが嫌なんじゃなくて…私が…」
嫌な記憶と重ねてしまったから。
「…大丈夫?」
また嫌なものを思い出し俯いて黙り込んだ私の肩に橘さんがそっと手を置いた。ビクッと一瞬身体が震えたが今度は大丈夫だった。
肩に置かれた手から温かい体温が伝わってくる。
「…も、大丈夫です。」
「そっか…。あ、百合ちゃん今日暇かな?」
訝しげにしながらもとりあえず頷くと橘さんはにっこり笑った。
「俺、水泳部でこれから部活なんだけど…百合ちゃんも来ない?」
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