第1章 7月7日
「驚きすぎだろ。」
くすくすと笑う声がする。
なんだか無邪気な笑い方。
初対面なのに気兼ねなく話してくるその雰囲気。
きっと年下なんだろうな、と優菜は考えた。
あっと言う間に隣に家が建ったと思っていたけれど、そう言えば1か月位前に引っ越してきたって親が言ってたっけ。
優菜は真っ暗な闇の中、目を凝らした。
自分と同じように窓から外を見上げる人の輪郭がかすかながら見える。
逆に、こちらは部屋の電気をつけているのでまる見えだろう。
そう考えて手すりに乗り出していた身を少し引いた。
「そんな真っ暗なところから急に声掛けたら、普通、驚くし。」
ぼそっと口に出してみるが、その声は雨の音にかき消されて暗闇の主には届かない。
「なんで、そんな顔してたんだよ。」
「えっ?」
「星にでも帰りたいの?」
「・・・ほし?」
暗闇からはまたくすくすと聞こえてくる。
「宇宙人なのかと思って。」
・・・・?
あぁ、そっか。
空を見上げてたからか・・・。
優菜は納得してまた空を見つめる。
一瞬身構えたけれど、相手に傷つけるつもりはないみたい。
ふっと気持ちを許したら、なんだか笑えてきた。
「星に、帰りたそうに見えた?」
「あぁ、なんか寂しそうだったよ。」
寂しそうだったよ、という言葉に心が勝手にとくんとした。
君が誰かは知らないけれど・・・
寂しそうに見えた私を気にかけてくれた…、そんなところなのかもしれない。