第3章 引力
網戸を開けて、身を乗り出す。
左側に視線を送るが、今日も暗闇のままだった。
目を凝らすけれど、やっぱり何も見えない。
「俺も。悲しくなった。」
突然、視線の先から生まれてくる声。
まだ耳に新しいその音。
素直で少し生意気な…彼だ。
「悲しく?」
今日も私と話してくれるのだろうか?
優菜は窓際に腰掛けた。
「知らなかったんだ。雨が降ると逢えないなんて事。」
七夕の伝説…
それを伝えるために、名を呼んでくれたのだろうか。
「あと、結婚してたのも知らなかった。」
まるで知り合いの話のように話す彼がおかしくて、優菜は笑う。
「誰かに教えてもらったの?」
「いや、ぐぐった。」
「え?」
「フツーにぐぐったんだよ。」
「ぐぐったって、何弁?」
「・・・・。普通にネットで調べたってこと。」
「あぁ、インターネットね。」
優菜は嬉しくなってふふふと笑う。
昨日は「だから?」とか言っていた子が、
わざわざ七夕の伝説を調べて声を掛けてきたのか。
ホント、可愛い人だな、と思う。
優菜は楽しみにしていたラジオのことなんてとっくに忘れてしまっていた。