第2章 交信開始
春樹は、暗い部屋が好きだった。
昨日も、そうだ。
いつものように、電気もつけずに部屋に入って窓を静かに空ける。
窓の左側には明かりが灯っていた。
(・・・・今日も居る。)
椅子に腰かけて手すりに持たれる。
向こうからこちらは見えないのだろう。
引っ越してから何日かこうして見ているけれど、一度も気づかれたことはなかった。
その日も特に声をかけるつもりなんてないままぼんやりと彼女を見ているつもりだった。
黒くて長い髪。
遠く空を見つめる目がどこか儚くて、見ていて飽きなかった。
それでも、
その日は少し違った。
今にも泣き出しそうなその表情を見ていたら、居ても立っても居られなくなって、気付けば声が出ていた。
想像していた通りの小さな声。
雨にかき消されないようにと必死でその音を拾った。
できる限り、話ができれば、と短時間で悩みながら言葉を選んだ。
『宇宙人』と言ってしまった後はさすがに不味かったかとヒヤッとしたが、結果から見てそれはいい方向へと転がった。
彼女は自身を宇宙人に例えたのだ。
そして、今。
『七夕』という話を知り、彼女がどんな世界観を持ってあの雨が降る空を見ていたのかを春樹は想像してみる。
彼女の見ていたセカイ。
それは確かに今まで出会ってきたどの人とも違うものだったように春樹は感じた。
・・・・モットシリタイ・・・・
その欲求に戸惑いはない。
早く帰りたいと、気持ちが逸る。
全く。
こういう時に限って時計は全く進んでくれないのだ。
一刻も早く彼女と交信したいのに。