第2章 交信開始
あの調子じゃ、本人は知らないんだろうな、と思う。
いつから登校していないのかは分からないが、とにかく俺は一度も隣の席に座っているアイツを見たことがない。
ふと隣を見ると、まだ、美咲と葉月がキャーキャー言いながら前日のテレビの話をしている。
何がそんなに面白いのか時々手を叩いて2人は笑った。
キャラクターだらけのおもちゃ箱のような筆箱。
その向こう側に目を向けるとガラスの向こうで静かに雨が降っている。
雨・・・
七夕・・・・
携帯を取り出して、『七夕』を検索した。
――織姫と彦星の伝説。
働き者の2人がお互いに惹かれあいめでたく結婚するが、
あまりにも幸せすぎて仕事が手につかなくなる。
そこで怒った神様が2人を天の川を隔てて引き離した。
・・・結婚してんのか。と、そんな新事実に小さく驚く。
2人を引き離したものの、あまりにも2人が悲しむため、7月7日の夜にだけは逢ってもいいとの許しが出る。
春樹もこの辺りまでは何となく知っていた。
というよりも、これで話が終わったと思っていた。
けれど、この話にはまだ続きがある。
その日から1年1度逢えることだけを楽しみにして2人は一生懸命に働くが、
・・・7月7日に雨が降ると天の川の水かさが増し、織姫は渡ることができず彦星も彼女に会うことができない。
・・・この日に降る雨は催涙雨とも呼ばれ、催涙雨は織姫と彦星が流す涙といわれている。
催涙雨・・・。
「なるほどね・・」
思わず口をついて出た言葉に、美咲が反応する。
「なにが、なるほどなのっ?」
そういって上目づかいに聞いてくる美咲。
白いセーラーには派手なピンク色の下着が透けて見えていた。
「わざと見せつけて、俺を誘ってンの?」
美咲と葉月の声が一段階大きくなって、またキャーキャーと何か言っていた。
笑いながら、肩を叩いてくる。
・・・ホント、こいつら楽しそうだな。
雨に手を伸ばしていたあの宇宙人が、
この場所に居られなくなったその意味を見た気がした。