第2章 交信開始
2回目のチャイムがなる中、無遠慮に扉を空ける。
ガラガラという音に気付いて、おはよー、という声があちこちから届いた。
春樹はそれに「おう。」という一言で返事をすませる。
一番後ろ、窓際に並ぶ二つの机。
窓際のほうには茶髪の女子生徒が座っている。
その隣に荷物を掛けて座った。
「そこ、お前の席じゃねぇだろ。」
「美咲、春樹くんの隣の席がいいんだもん。」
自分自身を名前で呼ぶ女がにっこりと笑いかけてくる。
くるんくるんに巻かれたツインテールが揺れるとふわりと甘いにおいがした。
・・・美咲。
最近ずっと付きまとわれている気がする。
「葉月~、美咲ここに座って授業うけたらだめかな?」
前の席に座る葉月は振り返ると、
「いんじゃない?」といって笑った。
変なイントネーション。
この2人は仲がいい、なにをそんなに話すことがあるのか四六時中しゃべっている。
まぁ・・・どこの学校でもたいていの女子はそうだったけれど・・・
出張の多い父親のおかげで、小学生の時から数えても3回目の転校だった。
いちいち人見知りもしていられないし、深く付き合いを持ってもすぐに離れてしまうかもしれない。
どこに行っても適応できるよう、薄っぺらい友情関係をすぐに作れるように、馴れ馴れしくも淡白な性格になったのは父親のせいだと春樹は思っている。
一限目は社会だった。
おじいちゃん先生がぶつぶつと言いながら授業を進めていく。
黒板にひたすら字を書いて、そうでないときは教科書を見ながら話す。
生徒の席なんて覚えている訳がない。
1時間、美咲はそのまま授業を受けた。
おい、優菜。
お前の席、くるくるパーマが使ってンぞ。
心の中で呟く。
『知ってるの?私の事?』
昨日聞いた声が鮮明に頭の中で再生された。
・・・・・知ってるにきまってるだろう。
隣の家に住む、
隣の席の女なんだから。