第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ真っ直ぐと僕の目を見て恥ずかしげも無く告げられた言葉を想起すると、途端に顔が熱くなる。
「うぅ~……」
ㅤ羞恥心に耐えきれなくなり、顔を両手で覆い隠して小さく唸り声を上げると、流石の土田さんもバックミラーで僕の様子を確認するが、顔を覆っている僕はそれに気付く事は無い。
「ルイ様。どうかなさいましたか?」
「……いえ、大丈夫です。すみません、気にしないで下さい……」
ㅤ顔を覆っていた両手を離して少し微笑みながらそう返すと、あまり納得はしていない様子だったが、土田さんはそれ以上声を掛けてくる事は無く、思考を運転に集中させた様だった。
ㅤそんな土田さんを一瞥した僕は、今一度自分の真さんに対しての行動を思い起こす。
(…出来る事なら謝りたい……でも、)
ㅤ自分がそれを行動に移せるビジョンが見えない上に、そもそも相手に面と向かって謝る事が可能なら、はじめから逃げ出す様な真似はしない。
(……真さん、初めて会った日、僕と友達になりたいって言ってたな……)
ㅤ移り変わる風景に目を向けながら僕は、初日に真さんに告げられた言葉を思い返した。
◇◇◇
『……私、ルイ君と友達になりたいんだ』
『だから少しずつルイ君の事、知っていけたらいいなぁって……』
◇◇◇
「……ともだち」
ㅤ遠くを見詰める様に小さく呟いた僕の声は、車の音にかき消されて土田さんの耳に届く事は無かった。
(このままじゃ駄目だ。何も始まらない。全く成長しない)
ㅤそんな事は分かっている。それでも。
──彼女の言葉を、僕は未だに嚥下する事が出来ないでいる。
◇◇◇
──夕刻。
ㅤ本日の分の仕事を終えて私服に着替えた私は、今日はどの様にしてルイ君を待ち構えようかと思案したが、特別、良案が出てくる事は無かった。
ㅤひとまず彼の部屋へと向かっている最中に何かしら閃く事を期待して、私はルイ君の部屋まで足を進める。
ㅤ何れにしても、今朝だって顔を合わせた瞬間に逃げられてしまった事を考慮すると、悲しいかな、どうなるかは粗方予想はついてしまう。
(……まあ、長期戦は覚悟の上だし)