第1章 碧に吸い込まれる
「……!!」
ㅤ隠れていたルイ君は抱き締める様に学生鞄を抱えていて、私と目が合うと一度肩をビクッと動かした後、盗み見ていた事が露見して恥ずかしいのか、頬を仄かに染め上げながら逃げる様に踵を返す。
「お、おはようルイ君! これから学校!?」
ㅤ急いで声を掛けるが、ルイ君の足が止まる気配は無い。
ㅤ私は遠ざかっていくルイ君を、先程よりも幾分か声高に言葉を投げる。
「いってらしゃーい! 気を付けてねー!」
ㅤ結局、一度も此方を振り返る事無く姿の見えなくなったルイ君を見送った私は、真上にある太陽を一瞥した後、諦めの滲んだ声音で独り呟いた。
「……これは長期戦になりそうだなぁ」
◇◇◇
ㅤ足を止める事無く玄関先まで走ると、昔からお世話になっている運転手の土田さんが後部座席の扉を開けて、いつもと同じ様ににこやかに微笑んで挨拶してくる。
「おはようございます。ルイ様」
「おはようございます!」
ㅤ被せ気味に挨拶を返して、鞄と一緒に飛び乗る様に車内に入る僕をしっかりと確認した土田さんは、後部座席の扉を閉めた。
ㅤ座席に深く腰掛け、乱れた呼吸を整える様に大きく深呼吸を繰り返す。
「っはぁ…はっ、はぁ……」
ㅤ最後に大きく息を吐くと、途端に後悔の念が僕を襲う。
「またやっちゃった~……」
ㅤ思わず吐露した独り言にも土田さんは気付かない振りをしてくれて、学校に向かうため車を発進させる。
ㅤまったく、優秀な運転手である。
(とまあ…一旦それは端に置いておこう……)
ㅤ思考の隅に追いやって、僕は先程の自分の行いを思い起こす。
(あんな風に逃げ出して、いい気はしないよなぁ……)
ㅤ避ける様な真似、本当は僕だってしたくない。
ㅤそもそも真さんが悪い人では無い事くらい、疑い深い僕にだって分かる。
ㅤそれでも彼女のあの目で見詰められると、顔が勝手に火照り頭の中がぐしゃぐしゃになって、その場から逃げ出してしまうのだ。
◇◇◇
『今までこんなに綺麗な人に出逢った事が無くて、ルイ君、本当にお人形さんみたい……』
◇◇◇
「~~~っ!」
──ここの所、毎日の様に思い出す。