第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ朝日の降り注ぐ裏庭で、竹箒で落ち葉を掃く私は、掃除する手を止めずに小さく溜め息を吐いた。
ㅤ晴れやかな日の光とは対照的に、私の心は鬱々としていた。メイドとしての仕事は順調すぎる程順調なのに、最重要の目的は未だ達成されていない。
──それもその筈、初日に相対して以来ルイ君とはまともに会話も出来ていないのだ。
ㅤ学校帰りのルイ君を玄関先で待ち伏せたり、廊下で拭き掃除をしながら偶然を装い遭遇するのを待つ等、此方からは色々と仕掛けてはいるのだが、ルイ君は私の顔を見るなり一目散に逃げてしまうので、仲良くなるなんて以ての外、私達の間には着実に溝が深まっていた。
(この間なんて悲鳴あげられちゃったし……)
ㅤ先日、いい加減挨拶を交わす程度には関係をランクアップさせたいと奮起した私は、初日に提案された“ルイ君の自室で待ち構える”という作戦をとった。
──結果、心構えをしていなかったルイ君は咄嗟に悲鳴を上げてしまい、それを聞き付けた使用人達に私は必死に弁明するという情けない結末に終わった。
(流石に凹むよなぁ……)
ㅤ当時の事を想起して思わず苦笑が漏れる。
(──でもあの時、ルイ君庇ってくれたんだよな……)
◇◇◇
『ち、違うんです! 僕が必要以上に驚いてしまっただけで、真さんは何も悪くありません!』
◇◇◇
(……あの時、私を悪者にしてクビにする事だって出来たのに)
ㅤそんな事柄があったためか、私は今一つルイ君を諦めきれないでいる。
──実はそんなに嫌がっていないのでは……?
ㅤ……なんて、思い上がりも甚だしい飛躍思考に陥ってしまいそうになるが、それは無いなと考えを改める。
(……もしくは、本当は嫌だけど父親の顔色を伺って断りづらいとか?)
ㅤそんな考えも一瞬過ったが、人見知りなルイ君の事を思って新しい使用人を雇わなかった、という前情報が入っている以上、ご両親がルイ君の嫌がる事を強要するとは考えづらい。
「ん゛ぅ~~~……」
ㅤ考えが纏まらず行き詰まって目を瞑りながら唸る私は、自分が掃除をする手を完全に停止している事に気付かない。
ㅤすると、何処からともなく視線を感じ目を開くと、視界の隅で物陰に隠れる様に金色が覗いている事に気付いた。
「ん?」