第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ冗談でも世辞でも無い、素直な気持ち。
ㅤ大きな窓から射し込む夕日に照らされ、目を細めたくなる程眩しく輝く、金色の髪。
ㅤ白磁の様な美しい肌に、愛らしい桜色の唇。
ㅤそして一際私の目を釘付けにしたのは、色は薄いのに重たそうな印象の睫毛に隠れる様に覗く、碧の瞳。
ㅤ光の加減では雨上がりの清々しい空色の様にも見えるし、吸い込まれそうな深い海の色にも似るそれに、文字通り私は目を離す事が出来なかった。
(本当に綺麗……)
「うぅ……ぁ、あの……」
「あっ」
ㅤ陶器の肌をこれでもかと言う程真っ赤に染め上げ、大きな目を潤ませ忙しなく動かしているルイ君に漸く気付いた私は、これ以上は流石にまずいと思い彼から少し視線をずらした。
「本当にごめんね?」
「い、いえ……」
ㅤ林檎の様に紅く染まった頬を両手で押さえて、ルイ君は落ち着かせる様にゆっくりと深呼吸を繰り返す。
ㅤそれを数回視界の隅で確認した後、丁度ルイ君が息を吐いたタイミングで私は声をかけた。
「少し落ち着いた?」
「はい……」
ㅤ多少熱の引いた頬から両手を離したルイ君を目端で確認して、先程中断された言葉を再開させる。
「私、ルイ君と友達になりたいんだ」
「えっ」
ㅤ私の急な申し出に今一つ理解が追い付いていないのか、ルイ君は瞠目する。
ㅤそんな彼を横目に、私は言葉を続ける。
「だから少しずつルイ君の事、知っていけたらいいなぁって……」
「……」
ㅤ私の放った言葉をゆっくりと咀嚼した後、彼は表情を曇らせ居心地悪そうに目を伏せた。
ㅤ頬の熱は完全に引いていた。
◇◇◇
──数日後。
「よし!」
ㅤ腰のリボンをきつく縛り上げて気合いを入れる。
ㅤ数日前からこの家の使用人として、優しいオバ様達に手解きを受けながら、私は与えられたお務めを果たそうと奮闘していた。
ㅤ長い廊下や大きな窓、広々とした庭は、清潔さを保つ為には幾ら掃除したって足りなくて、時々その優雅さに気落ちしてしまいそうになるが、同じ作業を繰り返す事はわりかし嫌いではないので特段苦痛などは無い。
(それはいい、それはいいんだけど……)