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幸福な恋におちている

第1章 碧に吸い込まれる


ㅤ頭の中で己を叱咤して、気持ちを落ち着かせる。ゆっくりと息を吸って、もう一度言葉を吐く。



「こんにちは。お父さんから話は聞いてるかな?」
「あっ、はい」
「よかった……あっ、ここ座ってもいい?」
「ど、どうぞ……」



(よし! この調子!)



ㅤ一人部屋とは思えない広すぎる部屋に鎮座する絢爛なテーブルとソファーにこれまた驚きつつも、彼の向かいに腰かけて、私は胸の前で両手を合わせて彼に言葉を投げ掛ける。



「まずはお互いを知るところから始めよう! 名前、聞いても良い?」
「あっ、はい……ルイ、です」



ㅤルイ君は辿々しく答える。



「ルイ君! いい名前だね! 私は真って言います」
「真、さん……」
「よろしくね」



ㅤ彼に小さく微笑むと、ルイ君は大きな瞳を揺らしながら俯きがちに応じる。



「ルイ君は好きな事とかある?」
「……好きなこと?」



ㅤ彼が少しだけ顔を上げて、私の方を見る。



「そう! 好きな事とか好きな物とか、パッと思い付いた物で良いの! 何でも!」



ㅤ私の急な問いに、ルイ君は絞り出す様に応える。



「ぇっ、と……読書とか?」
「読書!」



ㅤ食い気味に声を上げると、ルイ君はビクッと肩を震わせた。



「どんなジャンル?」
「なんでも……あっ、でも図鑑とかが多いかも……」
「へぇ~! 私も本読むのは好きだったけど、図鑑はあまり触れてこなかったな~……生き物とか?」
「はい、生き物とか植物とか……」
「へぇ~!」
「あっ、あの!」



ㅤ話を遮る様にルイ君が声を上げる。



「ん? どうしたの?」
「あの、そんなに見られると、その、恥ずかしいっていうか……」
「えっ」



ㅤそこで私は、自分が無意識に彼を凝視していた事に気付く。



「ご、ごめん! …ジロジロ見て、不躾だったよね! 本当にごめん!」
「いえ! 少し驚いただけで! 僕もすみません!」



(言われるまで気付かないなんて、ここはちゃんと言っといた方が良いかな……)



ㅤ顔を紅く染めながら、落ち着き無くモジモジと身体を動かすルイ君に、私は思い切って感じたままの感情を素直に告げる。



「今までこんなに綺麗な人に出逢った事が無くて、ルイ君、本当にお人形さんみたい……」
「へっ!?」


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