第1章 碧に吸い込まれる
(……もしかすると気を使われていたルイ君なりに、申し訳無いと思っていたのかもしれないな)
ㅤ何名かの古参の使用人達は仕事の引き継ぎを終えた後、お休みに入る人もいるらしいというのを小耳に挟んだ。
──勿論辞めずに残る人もいる。
ㅤ土田さんと梅さん、梅さんは使用人ではなく庭師としてだが、今後ともよろしくと改めて声を掛けてくれた。
(少しずつ、環境が変わっていく)
ㅤ今、この家にルイ君はいない。
ㅤ彼は今日、同級生と勉強会があるらしく、朝から出掛けていったのだ。
(あのルイ君が友達と勉強会か……出会った頃に比べたらとてつもない成長だ)
ㅤ自然と口角が上がっていく。
ㅤ花火大会の日、ルイ君の成長が少し寂しいと感じている自分に気が付いたものの、やっぱり成長していくルイ君を見ると、純粋に嬉しい気持ちの方が勝ってしまう。
(……ルイ君の人見知りが治ったら、もしかして私って用済みなのかな……。えっまさかクビとか無いよね? このまま使用人として雇ってくれるよね!?)
ㅤそんな事を考えながら廊下を歩いていると、目端に見知った人物を捉え、私は足を止め廊下の窓を開けた。
「梅さん、おはようございます!」
「おぉ真ちゃん! おはよう、今日も暑いね。ちゃんと水分取ってるか?」
「はい。梅さんこそ毎日大変ですね」
「あぁ、こうも暑いと参るな。まあ俺達の仕事は体調管理も完璧にこなしてやっと一人前だからな。こんなの屁でもねぇや」
「ははっ、流石です」
ㅤ和やかに話していた途端、梅さんは思い出したかの様に剣呑な表情を浮かべ、双眸が鋭くなる。
「自分の体調管理も満足に出来ねぇ奴は、まだまだ素人同然だ。……しっかしな、何度言っても聞きやしねぇ」
「へ?」
「……実は今回の件で庭師の方も何人か新しいのを連れてきたんだ。その中には俺の孫も居るんだが……」
ㅤそういえば朝、知らない顔が何人か庭を歩いている事に気付いた時、先輩がそんな事を話していたな、と思い出した私は、梅さんのその言葉に小さく頷いた。