第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ彼……、ルイ君との関係性や距離感は、実際問題、本当にこのままで良いのだろうか。
ㅤ只の使用人と雇い主の息子というには、少々近すぎるという事は、流石の自分でも自覚はしている。
ㅤルイ君に避けられていた時は、自分からグイグイと距離を詰めていたというのに、いざ近しくなると関係性に悩むなんて勝手にも程がある。
(……ルイ君から向けられる感情を、私は処理する事が出来ないでいる)
ㅤ私の自惚れや勘違いならそれで良いのだ。
ㅤしかし、これから先ルイ君の世界が広がった時、私の存在が足枷になる時がくるかもしれない。
(……そろそろ、考えないといけないな)
ㅤ元々は人見知りなルイ君を人に慣らさせる、という事から始まっているのだ。
ㅤつまり目的が達成されれば、ルイ君にとって私は必要なくなる。
(……いざ離れる時がくる前に、少しずつ距離を置いておかないと)
ㅤ見える世界が広がりつつあるルイ君よりも、私の方が先に駄目になってしまう。
「……真さん」
「ん?」
「綺麗ですね……」
ㅤ花火に視線を奪われたルイ君は、無意識なのか呟く様に口を開いた。
「……うん、そうだね」
(時が来れば離れざるを得なくなる。でも、今はもう少しだけ……)
ㅤ私からこの笑顔を奪わないで欲しいと、今はまだルイ君の隣にいるのは私であれば良いと、切に願ってしまった。
◇◇◇
ㅤ花火大会の日から数日経ち、夏休みも終わりが近付いてきた頃、日課になりつつある庭の掃き掃除を終わらせた私は、今日も長い廊下を歩いていた。
ㅤいつも通りの風景の様だが、いつもと格段に違う事が一つある。
「ここから見えるのが中庭で、この廊下を真っ直ぐ進むと外に出られるわ」
「は、はい! 広いですね……」
「あの、この先は……」
「あぁ、此方はね……」
ㅤ私に屋敷の案内をしてくれた先輩が、新人の使用人達に、同じ様に指導している。
ㅤ驚く事に、新しい使用人を雇ったのだ。
ㅤこれはとても喜ばしい事で、あのルイ君が自ら進んで両親に提案したらしい。
ㅤ今まで人見知りのルイ君の為に新しい使用人を雇わなかったご両親は、きっとルイ君からの提案にさぞかし驚いた事だろう。