第1章 碧に吸い込まれる
「剪定っていうのは人に言われて出来るようになるもんじゃねぇ。実際に自分の手を動かして覚えていくもんだ。早く一人前になろうと躍起になってるのは分かるが、それでぶっ倒れちまったら元も子もねえ。真ちゃんもそう思うだろ?」
「へっ!? ……はぁ、はい」
ㅤ急に同意を求められて、私は中途半端な返事を返す事しか出来なかった。
ㅤそんな私の事など気にも留めず、ヒートアップした梅さんの口は止まらない。
「ただの弟子ならまだ良いんだが、実の孫っていうのがな。なかなか聞く耳を持たねぇ」
「あぁ、なるほど……」
「……あっ、」
ㅤ何かに気付いたらしい梅さんが声を上げたかと思うと、数秒間、私を凝視する。
ㅤその視線にいたたまれなくなった私は、恐る恐る疑問を投げ掛ける。
「……な、何でしょう?」
「いや、そういや真ちゃんと歳が同じだったなと思ってな」
「お孫さんとですか?」
「あぁ…──そうだ!」
ㅤ窓枠から顔を覗かせる私の肩を、ガシッと力強く掴んだ梅さんは、驚愕の言葉を発した。
「真ちゃんからも言ってくれないか? ちゃんと休憩をとれって」
「……はぁ!? わ、私がですか!?」
「あのルイ様を懐柔した真ちゃんならきっと大丈夫だって! ……おい! 陽輔! ちょっとこっち来い!」
ㅤ梅さんが声高に名を呼ぶ。
ㅤその名前に一瞬引っ掛かりを覚えたが、今の状況を思い出して、その考えは一気に霧散していった。
ㅤ途端に私の心臓が急速に高鳴り始める。
(ちょっと待ってよ! 梅さんの言うこと聞かない人が私の言うこと聞くわけ無いじゃん! ていうか懐柔って……もっと良い言い方あったでしょ! 大体それはルイ君が純粋で素直だったから上手くいったのであって、別に誰とでも仲良くなれるわけじゃあ……、あああ待って呼ばないでえぇ!)
ㅤしかし私の悲痛な想いも虚しく、頭にタオルを巻いた細身の男性が、チラリと顔を覗かせた。
「……何? 今、手離せないんだ、けど……」
ㅤ彼の視線が梅さんから私に移った時、言葉を詰まらせ大きく目を見張り、私を凝視する。
ㅤそんな彼の様子に、私も高校を卒業してから頭の片隅にも留めていなかった、彼の顔と名前を何とか一致させた。
「…久我……?」