第1章 碧に吸い込まれる
ㅤどうやらそれはルイ君も同じな様で、憂いを帯びた表情で俯いていた。
ㅤ彼の何かを耐える様なその表情から、私は逃げる様に視線をずらした。
「……だったら、」
ㅤルイ君が言葉を吐く。
ㅤ隣にいる彼に視線を移すと、僅かに眉尻を下げて、何かを期待する様な目で私を射抜く。
「来年も、ここで花火を見ませんか?」
「……え、」
ㅤ予想もしていなかった言葉を紡いだルイ君に、私はうまく言葉を返す事が出来なかった。
ㅤそんな困り果てた私を助けるかの様に、大きな音が轟いた。
「わっ!」
「始まった!」
ㅤ色とりどりの大輪の花火が、大きな音をたて開花する様に次々と夜空に咲いていく。
ㅤお互い時間も忘れて花火に魅入っていたが、ルイ君が思い出したかの様にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…ずっと、一人で部屋の窓から見てました」
「……?」
「こんな近くて見たの初めてで、ずっと憧れてて、しかも隣に貴女がいて……。こんな幸せな事、他に無いです」
ㅤ花火を眺めるルイ君の瞳が少し潤んでいる事に気付いた私は、そのあまりのいじらしさに無性に彼を抱き締めてしまいたくなった。
ㅤ当然、実際にそれを行動に移す訳では無いのだが、何か返せる物は無いかと考えた結果、私は口を開いた。
「……今日だけじゃないよ」
「……え?」
ㅤルイ君の視線が私に向く。
「来年も、またここで花火を見よう」
「……! っはい!」
ㅤ先程の、花火が始まる前の誘いの返事だと気付いたルイ君は、満面の笑みと共に大きく頷いた。
「あっ! 見てください、真さん! 今の花火ハートの形してましたよ!」
「え、嘘! 見てなかった! うわー! もう一回上がってー!」
ㅤもう一度花火の方に目を向けたが、数秒だった後、盗み見る様にルイ君に視線をずらす。
(……ごめんね、ルイ君)
ㅤまたこの場所に来ようと約束した時、本当は”今度は皆で“と、付け加えて逃げ道を作ってしまいたかった。
ㅤしかし、そんな言葉をルイ君は求めていないのではと考えて、出かかった言葉をなんとか飲み込んだのだった。
ㅤ思った事をすぐ顔に出してしまうルイ君の気持ちを感じ取って、ついつい甘やかしてしまう。
(……駄目だとは分かってるんだけどなぁ)
ㅤ最近、妙な焦りを感じる。