第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ花火の時間が近付いていた事に気付いた私は、周りを見渡した。
ㅤどうやら人々は皆、花火のよく見える河川敷の方に向かって歩いているようだ。
ㅤ直前に父への土産用に焼きそばを買って、同じ様に河川敷に向かおうとする私を、ルイ君が呼び止めた。
「あっ、真さん! 待ってください!」
「え、どうしたの?」
ㅤルイ君は真っ直ぐ私を見詰めて応えた。
「……実は、梅本さんに教えてもらったんです。花火がよく見える所。ついて来てください」
ㅤそう言ったかと思うと、有無を言わさず私の手を引いたルイ君は、人の波を縫うように歩いていく。
ㅤその予想外の強引さに私は何も言えずに、ただ黙って彼の後をついて行く事しか出来なかった。
(……何処に行くんだろう……)
ㅤ人の波とは真逆の方に足を進めるルイ君の、目線より少し下にある丸い後頭部を、私はただ眺めていた。
◇◇◇
「すいません……結構歩かせてしまって……」
「ううん、大丈夫だよ。……それにしても、こんな所に神社なんてあったんだね」
ㅤ数分か、もしかすると数十分は経っているのかもしれないが、歩き続けると気付けば周りに人の気配は無くなっていた。
ㅤ河川敷とは正反対にあるその神社は、初めて立ち寄るには少々存在感があり、暗闇の中浮かぶように鎮座するそれに、私は僅かに怖気付いた。
ㅤそんな私を余所に、ルイ君は神社までの階段を上がっていく。立ち止まる訳にもいかず、私も足を踏み入れた。
「この神社の裏です」
ㅤ階段を上りきって、ルイ君に促され辿り着いたその場所は、辺りを一望できる見晴らしの良い高台の様になっていた。
「わぁ~! 凄いね、ルイ君!」
「はい! 梅本さんが子供の頃、よくここで花火を見ていたと仰っていて……でもまさか、こんなに壮観だったとは……」
ㅤ驚嘆の声をあげた私と同様、ルイ君も驚きを隠せない様子で目を瞠った。
「……こんな見晴らしの良い所、もっと知られても良さそうなのに、全然人いませんね」
「うん。草も生い茂っててあまり整えられていないようだし、もしかしたら忘れられてしまった場所なのかも……」
(……なんだかそれは、とても勿体無い気がする)
ㅤ自ら紡いだ言葉にも関わらず、無性に悲しくなってしまう。