第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ自分から言い出した手前、ここは良いところを見せたい場面なのだが、結果はヨーヨーが一つ、金魚に至っては一匹も掬い上げずにポイが破れるという、あまりにも情けない結末に終わった。
──意外な才能を発揮したのはルイ君だ。
ㅤ初めてにも拘わらず、ルイ君は金魚を二匹掬い上げて、それをキラキラした目で嬉しそうに私に見せてきた。
「わぁ! 真さん! 見てください!」
「凄い! 凄いよルイ君! 初めてなのに!」
ㅤ二人して気持ちが高揚して、人目を気にしない声量で声をあげてしまい、出店のおじさんやすれ違う人達に温かい目で見られて、ルイ君と顔を見合わせ照れ笑いをした。
「僕、この子達のこと大事に育てます」
ㅤそう言いながら、金魚の入った袋を愛おしそうに見詰めながら宣言するルイ君に、からかい半分で応えた。
「ソラには気を付けてね」
「えっ」
「水槽にいた筈の金魚が猫に…なんて、聞いた事があるような無いような……」
ㅤ一目で冗談と分かるように、顎に手を当て芝居がかった口調で私は言う。
ㅤそれを聞いたルイ君は目を見開いた後、ゴクリと生唾を飲み込んで、小さな声でハッキリと呟いた。
「…あまり水槽には近付けないようにします……」
ㅤ先程までとは打って変わって、途端に気落ちしてしまった様子のルイ君に、急いで冗談だった事を伝える。
「も、もぉ~! 本当にビックリしたんですからね!」
「あっはは! ごめんごめん」
ㅤ頬を膨らませ此方を見上げるルイ君に、私は軽い口調で謝罪の言葉を述べながら、その実、頭の片隅で別の事を考えていた。
(……冗談が言い合えるようになるのがこんなに嬉しい事だったなんて、知らなかったな)
ㅤルイ君との関係性の変化を再確認した私は、臍を曲げそうになるルイ君の機嫌をとろうと、目線を合わせ話し掛ける。
「ホントごめんね? そろそろベビーカステラ買いに行こうよ。出来立てで美味しいよ」
「……誤魔化そうとしてるでしょ……」
ㅤ恨めしそうに呟いたルイ君だったが、買い与えたベビーカステラを一つ食べた途端に、満面の笑みを此方に向けてきたので、私はまた声を出して笑ってしまった。
◇◇◇
ㅤ楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。