第1章 碧に吸い込まれる
ㅤ浮足だち冷静な判断が欠けていくのを感じる。
「……うん、これではぐれる事は無いね。まずは何処に行こうか」
「僕、お祭りってあまり行った事が無くて、色々行ってみたい所があるんです!」
「うん、全部行こう! 私もワクワクしてきた!」
「はい! ふふっ、楽しみだなぁ」
(……周りの目なんか気にするのは止めよう。今この瞬間を全力で楽しもう)
ㅤ知り合いにでも会ったらその都度説明すれば良い。
ㅤ私にとってはルイ君の笑顔を曇らしてしまう事の方が避けたい。もう一度柔くルイ君の手を握り返して、私達は大勢の人混みの中、歩みを進めた。
◇◇◇
ㅤまずは腹ごなしとばかりに、二人で露店を巡った。
ㅤルイ君も私も軽い昼食しかとっていなかったので、目に入る物は全て魅力的な物に映った。
ㅤあまりお祭りに慣れていないと言っていたルイ君の為に、色々体験させてあげたいと考えた私は、シェアする事を提案してルイ君もそれに同意してくれたので、たこ焼きと焼きそばを一つずつ買った。
ㅤ人混みから少し離れた所に僅かに上がりになっている場所を見付けて、浴衣が汚れない様にと、そこにハンカチを敷いて腰掛ける。
ㅤ焼きそばのパックを開けると、ソースの香りが鼻腔を通って、より空腹を促す。
「わぁ、屋台の焼きそばなんて久しぶり! いただきまーす」
ㅤ割り箸を割って麺を持ち上げ、焼きそばを口に運び麺を啜る。
「ん~! 美味しい! 屋台の焼きそばって特別に美味しく感じるんだよなぁ」
(お土産用に父さんの分も買って帰ろう。花火が始まる直前くらいに買えばいいかな)
ㅤそんな事を考えながら焼きそばを味わう隣で、ルイ君はたこ焼きと対面していた。
「僕、たこ焼きって初めて食べます……」
「え、そうなの? 熱いから気を付けて食べてね」
「はい、いただきます……」
ㅤソースでてらてらと輝き鰹節が踊るたこ焼きを、ルイ君はゆっくりと口に運んだ。
ㅤそして…──、
「ァ……つ!」
「だ、大丈夫!?」
「はふ、……!!! ……真さん! こ、これ、すっごく美味しいです!」
ㅤ慌てて飲み物を差し出す私を他所に、初めて口にするたこ焼きに目をキラキラと輝かせて此方を見詰めるルイ君があまりにも可愛くて、私は思わず声を出して笑った。
◇◇◇