• テキストサイズ

幸福な恋におちている

第1章 碧に吸い込まれる


ㅤ暫くそうしていたかと思うと、突如勢い良く顔を上げて、覚悟が決まったかの様な面持ちで私の名を呼んだ。



「真さん!」
「な、何!?」
「手、繋ぎませんか!」
「……えぇっ!?」



ㅤ予想外のルイ君の言葉に思わず声を上げた私だったが、こんな私を余所にルイ君は焦った様に言葉を続けた。



「いや! 別に深い意味とかは全然無くてっ! はぐれても後で集合出来るけど、花火の時間までに間に合うか分からないし……、それなら最初からはぐれない様に手を繋いでおけば良いかなと思っただけで、ほ、本当に! 深い意味は全く、」



ㅤ早口でそう捲し立てたルイ君は、未だその口を止めずに喋り続けているが、私は一旦ルイ君の声に傾けていた耳を遮断して、思考を集中させる。



(……確かに、はぐれる事前提で考えると二度手間なんだよな。ルイ君の言葉は理にかなってるけど……)



ㅤしかし、多少なりとも憚られる。

ㅤ別にルイ君と手を繋ぐのが嫌な訳ではないのだが、だからと言って周りの目が気にならない程、お互い子供でもない。

ㅤどちらかの知り合いにでも会ったら、からかわれたり、勘違いされるかもしれない。
ㅤ特にルイ君くらいの年齢の子は、そういう事に敏感な年頃の筈だ。



(ルイ君はその辺、どう考えてるんだろう)



ㅤしかし考えている事をこのまま伝えて、ルイ君が傷付いてしまうのではないかと思った途端、この気持ちを口にするべきではないという結論に至った。

ㅤ変に色々考えてしまい、このまま時間を消耗してしまうのは勿体無いと考えた私は、ええい、ままよ!……とルイ君に手を差し出した。

ㅤするとルイ君は、差し出した手と私の顔を交互に見比べたかと思うと、恐る恐る私の手に自分の手を重ねてきた。

ㅤ多少日が落ちてきたとはいえ、夏真っ只中の日差しの影響か、もしくは慣れないシチュエーションに戸惑ってなのか、お互いの手の平には僅かに汗が滲んでいた。

ㅤそんな事はお構い無しかという様に、断られなかった事が嬉しいのか、途端にルイ君の表情に花が咲いていく。



(ぐぅ……! 可愛いッ……)



──…今まで自惚れるなと、なんとか自分を律してきたが、これ以上は無理だ。



(ルイ君、私の事好きすぎるだろ!)



ㅤ言葉にせずとも全力で向けられる好意の数々に、ひたすらに狼狽する。


/ 40ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp