第1章 碧に吸い込まれる
「ね? すっごく可愛い。……今日はルイの事よろしくね? とっても楽しみにしてたから」
ㅤ彼女のその慈愛に満ち満ちた言葉に、私は一呼吸置いてから大きく頷きながら返事をした。
◇◇◇
…──カシャッ!
「よし。えーと、お祭り、行って、きます……と、」
ㅤ慣れない自撮りに悪戦苦闘しながら、それなりに様になっているであろう写真を選び、一言添えて父にメールを送信した。
ㅤ写真を送って欲しいと言ったのは父だ。
ㅤ今までお洒落等に無頓着……否、無頓着のふりを装っていた私だったが、年相応の格好をすると知った時、一番喜んでくれたのが父だった。
ㅤ私自身、実際に父の目の前でこの姿を見せたかったのだか、残念ながら仕事で忙しい父にはそれは叶わなかった。
(……まあ、しょうがないよね)
ㅤ無理矢理そう納得させて、携帯を巾着に仕舞おうとすると、それを食い止めるかの様に携帯が震え出した。
(え……今仕事中の筈なのに)
ㅤもう一度携帯を取り出し届いたばかりのメールを開いた。そこには…──、
『可愛い! とても似合っているよ。
待ち受けにします。
人が多いだろうから気を付けて。
お祭り楽しんでおいで』
「ふふっ」
ㅤもしかしたら父は、仕事中でも直ぐに返信が出きるように、携帯を傍らに置いていたのかもしてない。
ㅤそんな父の姿を想像してしまい思わず笑みが漏れるが、忘れない内に“行ってきます”と返事を返して、今度こそ携帯を巾着に仕舞った。
「さて、そろそろ行くか」
ㅤきっと、ルイ君が首を長くして待っているだろうから。
◇◇◇
ㅤ玄関先で下駄を履き、カコンと音を鳴らす。
ㅤ慣れない音の鳴る靴に謎の気恥ずかしさを感じたが、その感情には気付かない振りをして、ルイ君の姿を確認ため視線を上げた。
(あ、いた)
ㅤ大人しめの落ち着いた濃い青の浴衣に身を包んだルイ君は、私が鳴らした下駄の音に気付いたようで、ゆっくりと小走りで此方に向かってくる。
ㅤ私も近付こうと慣れない下駄で歩みを進めた。
「真さんっ」
「ルイ君。ごめん、待たせちゃったね」
「いえ、全然。……あの、浴衣、」