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幸福な恋におちている

第1章 碧に吸い込まれる


──…数日後。



「とっても似合ってるわ! 真ちゃん!」
「あ、ありがとうございます……」



ㅤ初めて着る浴衣は少し苦しくて、だけどそれ以上の高揚感が私を包んでくれた。



「ふふっ、ルイ様は昔から人目を惹く人だったけど、きっとこれなら隣に並んでも見劣りしないわね」



ㅤ娘のお古だと言っていた先輩から頂いたその浴衣は、青と白をベースに朝顔の花が全体に散りばめられていて、身を包んだ私は何故だかソワソワした気持ちを抑えきれず、落ち着かせる様に黄色の帯を一撫でした。



「よし! 髪も完璧!」
「メイクも後少しで終わるわよ」



──そう言い終わるや否や、部屋をノックする音が響いて、全員が手を止めて扉の方を振り向いた。



「開けてもいいかしら」
「っ奥様! どうぞお入り下さい!」



(奥様? …って事は、ルイ君のお母さん!?)



──ルイ君のご両親はどちらも仕事が多忙な様で、家を空けている事の方が圧倒的に多い。

ㅤ実際ここに勤めて数ヶ月経つが、未だに挨拶はおろか、二人の姿を拝見した事すら無いのだ。



(まさかこのタイミングで?! 待って、心の準備がッ……!)



ㅤしかし私の願いも虚しく、扉は開かれた。



──部屋に入ってきた女性はスーツを身に纏っていて、背筋が綺麗に伸びたその姿は、まさに威風堂々を具現化した様な、息を飲む程美しい女性だった。

ㅤ思わず見惚れてしまった私は、初めてルイ君と対面した時の感覚と似ているなと、無意識に頭の片隅で考えていた。



「少し時間が空いてね、梅本さんに皆ここに居るって教えてもらったの。……貴女が真さんね?挨拶が遅くなってごめんなさい。ルイの母です」
「こ、此方こそっ、遅くなってすみません! 久我真です! よろしくお願いします!」



ㅤ私は急いで立ち上がり、折角整えて貰った髪を気にも留めず、勢い良く頭を下げた。



「ふふっ、勿論ルイから話は聞いてるわ。……顔を上げて? 折角綺麗にした髪が乱れちゃう。これからあの子とデートなんでしょ?」
「デッ、デート……」



ㅤこの間の様に訂正するのは何だか憚られて、返事に困っている私の事など彼女は気にも止めずに、何かに気付いた様子でメイクをしてくれていた先輩に問い掛けた。


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