第1章 碧に吸い込まれる
「でも本当に私でいいの? クラスの子とかと行った方が楽しいんじゃないかな?」
ㅤあの日、お互いの気持ちを打ち明け合った後、何かと吹っ切れたらしいルイ君は同級生達との関係性もうまくいっている様で、最近ではよく学校で起こった出来事等を話してくれるようになった。
ㅤ前よりも笑顔が格段に増えて、まだ少し辿々しいが感情を素直に吐露する事も増えた。
ㅤもしかすると、今まで色々と我慢してきた分これが本当のルイ君の本質なのかもしれない。
(……ルイ君が明るくなったのは本当に喜ばしい事なんだけど……)
ㅤその事が故に、今の私を悩ませる別の問題が生まれてしまったのだ。
それは──…、
「真さんがっ……真さんと一緒に行きたいんです……! だ、だめですか……?」
(……ッう、)
ㅤ眉を下げ潤んだ瞳を此方に向けてくるその体勢は、図らずもあざといとも取れる上目遣いだったが、ルイ君には一切そういう意図が無い事を知っている私は、恐る恐る私を見上げるルイ君の、その小動物の様な愛らしさに思わず心の中で短く唸った。
ㅤあまりにも完成され過ぎたその顔で頼み事をされて断れる人間が居るのなら、今すぐ私の元に連れてきて欲しい。
「……ううん、いいよ。行こっか!」
──…かく言う私も、ルイ君のこの顔にはてんで弱いのである。
◇◇◇
「それってデートのお誘いじゃないの!?」
「えぇ!? デッ…! ち、違いますよ!」
ㅤ休憩時間、先輩メイドさん達と梅さんが差し入れてくれたクッキーを囲んで、お茶を飲みながら近況報告をしていた。
ㅤすると話の流れで、先日ルイ君にお祭りに誘われたという事実をポロっと口にした途端、先輩達はクッキーをテーブルに落としたり、目を見開いたままその場で固まったりと様々な反応を見せた。
──…そして冒頭の台詞である。
ㅤその言葉に私も動揺を隠せずに、飲んでいたお茶の入った湯呑みを落としそうになるが、両手でしっかりと掴んで何とかギリギリの所でそれを阻止する。
ㅤそんな私を他所に、もう一人の先輩が口を開いた。
「でもまさか、あのルイ様が自分から誘うなんて、真ちゃんの努力の賜物ねぇ」
「ホントよ~。こーんな小さい頃から一緒に居たけど、きっと私達……心のどこかで諦めてたんだわ」